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遺産分割協議書に実印を押しても、相続登記を済ませるまで、あなたの権利は第三者から守られていません
お父様が遺された名古屋市内のご自宅について、相続人全員で遺産分割協議がまとまり、協議書に実印を押した——ここで「これで手続きは終わった」と感じてしまう方は少なくありません。しかし、協議書の作成はゴールではなく、法務局で相続登記を済ませて初めて、あなたの権利は法律上しっかりと守られます。
民法には「不動産の権利は、登記をしなければ第三者に対抗できない」という大原則(民法177条)があります。さらに、2019年7月に施行された改正相続法では、「相続による権利の承継も、法定相続分を超える部分については登記がなければ第三者に対抗できない」(民法899条の2)と明文化されました。つまり、遺産分割や遺言によって不動産を取得しても、登記を後回しにしている間に第三者が現れると、せっかく取得した権利の全部または一部を失うことすらあり得るのです。
この記事では、相続登記の背後にある「対抗要件」という考え方を、遺産分割の「前」に第三者が現れた場合と、「後」に現れた場合の2つの具体例に分けて、名古屋のごとう司法書士事務所がわかりやすく解説します。
登記は不動産の権利を守る「鎧」——2019年の民法改正で、相続もその例外ではなくなりました
不動産登記制度は、その不動産の所有者が誰であるか、抵当権などの担保が付いているかといった権利関係を法務局が記録し、誰でも確認できるように公示する制度です。不動産を買おうとする人や、不動産を担保に融資をする金融機関は、登記記録を信頼して取引に入ります。この「取引の安全」を支えるために置かれているのが、民法177条です。
(民法177条)不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
「対抗することができない」とは、当事者同士の間では有効に権利を取得していても、その不動産について利害関係を持つに至った第三者に対しては「私が所有者です」と主張できない、という意味です。これを対抗要件主義といいます。どれほど正当な経緯で取得した権利であっても、登記という鎧を身に着けていなければ、第三者との争いの場面では守ってもらえないのです。
ここで注意していただきたいのは、この考え方が売買だけでなく、相続にも及ぶという点です。かつての判例では、「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)で取得した不動産は、登記がなくても第三者に権利を主張できるとされる場面がありました。しかし、2019年7月1日に施行された改正相続法で新設された民法899条の2により、相続による権利の承継は、遺産分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないこととされました。法務省の施行通達(令和元年6月27日民二第68号)でも、取得した権利について登記を備えなければ、法定相続分を超える部分を第三者に対抗できないことが明確に示されています。「遺言があるから」「協議書があるから」大丈夫、と言い切れる時代ではなくなったのです。
遺産分割の効力は相続開始時にさかのぼる——ただし「第三者の権利を害することはできない」
遺産分割の効力について、民法909条は次のように定めています。
(民法909条)遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
たとえば、相続人の一人が遺産分割協議によって不動産を単独で取得した場合、その人は分割協議が成立した日からではなく、相続が開始した時(被相続人が亡くなった時)から所有者であったものと扱われます。これが「遡及効」です。
しかし、この遡及効を貫くと困った事態が起こります。遺産分割協議がまとまる前の段階では、不動産は法律上、相続人全員が法定相続分の割合で共有している状態です。その間に、相続人の一人の持分を買い受けた人や、差し押さえた債権者がいた場合、後から成立した遺産分割の遡及効でその立場が覆されてしまうと、取引の安全が大きく害されます。そこで909条ただし書は、「第三者の権利を害することはできない」として、遡及効に歯止めをかけているのです。
重要なのは、第三者が「遺産分割の前」に現れたのか、「遺産分割の後」に現れたのかによって、法律関係の処理がまったく異なるという点です。次の2つのケースで具体的に見てみましょう。
民法909条ただし書によって第三者が保護され、単独取得のはずが「共有」になってしまいます
【事例1】被相続人Aが名古屋市内の不動産を遺して亡くなり、相続人は長男Bと長女Cの2人。遺産分割協議がまとまる前に、事業資金に困っていたBが、自分の法定相続分である持分2分の1をDに売却してしまいました(Bの債権者がBの持分を差し押さえた場合も同様に考えられます)。その後、BとCの遺産分割協議で「不動産はCが単独で取得する」と決まりました。
この場合、Cは民法909条本文の遡及効によれば相続開始時から単独所有者だったはずですが、ただし書により、分割前に現れた第三者Dに対して遡及効を主張することができません。Dが取得した持分2分の1は保護され、Cは見ず知らずのDと不動産を共有する結果になってしまいます。なお、判例・通説上、Dのような分割前の第三者が保護されるためには、持分移転登記や差押えの登記といった権利保全の手続を備えていることが必要と解されています。
このケースの教訓は明確です。遺産分割協議が長引けば長引くほど、他の相続人の債権者や持分の買受人といった第三者が入り込む余地が生まれます。相続人の中に借金を抱えている方がいる場合や、相続人同士の関係が疎遠な場合は特に、相続開始後できるだけ速やかに協議をまとめ、登記まで完了させることが大切です。
最高裁判例と民法899条の2が示す結論——遺産分割協議書は登記の代わりにはなりません
【事例2】今度は、遺産分割協議で「不動産はCが単独で取得する」と決まった後のケースです。Cは協議書を作成して安心してしまい、相続登記をしないまま数年間放置していました。その間に、Bが自分の法定相続分である持分2分の1をEに売却し、Eは持分の移転登記を済ませてしまいました(Bの債権者がBの持分を差し押さえて登記した場合も同様です)。
最高裁判例(最判昭和46年1月26日)は、このような遺産分割後の第三者との関係を、BからCへの権利移転とBからEへの権利移転が二重に行われた場合に似た関係とみて、民法177条により「先に登記を備えた方が勝つ」と処理しました。そして現在では、民法899条の2がこの結論を明文化しています。すなわち、Cが遺産分割で取得した権利のうち、自分の法定相続分2分の1を超える部分については、登記をしなければ第三者Eに対抗できません。先にEが登記を備えた以上、Cはその持分をEに主張できず、やはりEとの共有を強いられることになるのです。
遺産分割協議書は、相続人全員の合意内容を証明する大切な書類ですが、登記に代わるものではありません。協議書を金庫にしまって安心するのではなく、協議成立後は間を置かずに相続登記を申請することが、権利を守る唯一の方法です。
なお、2024年4月に始まった「相続人申告登記」を利用すれば、戸籍などの簡単な資料で相続登記の申請義務を果たしたものとみなされます。ただし、この申告登記はあくまで「相続が開始したこと」と「自分が相続人であること」を報告する制度にすぎず、持分などの権利関係を公示するものではないため、この記事でご説明してきた第三者への対抗要件にはなりません。義務を果たすことと権利を守ることは別問題であり、最終的には遺産分割にもとづく正式な相続登記まで済ませることが不可欠です。
「争いに負けないための登記」から「法律上しなければならない登記」の時代へ
本記事の内容を整理します。不動産の権利は登記をしなければ第三者に対抗できないという対抗要件主義(民法177条)は、相続の場面にも及びます。遺産分割には相続開始時にさかのぼる遡及効(民法909条)がありますが、分割前に現れた第三者にはただし書によって遡及効を主張できず、分割後に現れた第三者とは登記の先後で優劣が決まります。そして民法899条の2により、遺産分割でも遺言でも、法定相続分を超える部分の取得は登記をしなければ第三者に対抗できないことが、条文上も明確になりました。
さらに現在では、2024年4月から相続登記の申請が義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が必要となり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。義務化前に開始した相続も対象です。また、2026年4月からは住所や氏名の変更登記の申請も義務化されました。相続登記は「争いに負けないための登記」であると同時に、「法律上しなければならない登記」にもなっています。
名古屋のごとう司法書士事務所は、地下鉄「丸の内」駅からすぐ、名古屋市中区丸の内のTCF丸の内ビル6階にある、相続と不動産の専門事務所です。司法書士として相続登記・遺産分割協議書の作成をサポートするのはもちろん、宅地建物取引士として相続した不動産の売却のご相談までワンストップで承ります。お仕事などでお忙しい方、女性やご年配の方、外国籍の方が関わる相続のご相談にも、お一人おひとりに合わせて親切丁寧に対応いたします。
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